essay / 湖畔の思索日誌
喧噪の中の静けさ
インドは二度訪れた。21才の時と、26才の時だ。
初めての海外がインドだった。大学の仏教遺跡研修で北インドに2週間。
その時にまた来ようと心に誓い、26才の時に南インドから北インドへ半年ほど旅をした。
秩序正しい日本とは大きく異なるインド。中でも一番衝撃を受けたのは、音だった。
それは瞬間的には騒々しさに感じるのだけれど、よく耳を澄ませば理解できる音の多様さに気づけば魅了されていたのだった。
車やオートリクシャーのクラクション、客引きや物売り、物乞いの声、ヒンズーの祈りの歌、プージャの儀式、どこからか聞こえるインド音楽、人々のおしゃべり、チャイの素焼きのコップが割れる音、洗濯や沐浴の賑わい、とにかくあらゆる生活音が混沌と渦を巻く。
静けさを好む私にとって、これらの音を耳が受け入れるまでに少し時間が必要だったけれど、この音には人々の「生」が密接していて、人々の生きるエネルギーそのものなのだと感じるようになってからは、不思議なことに、喧噪の中にいるのに心地よい静けさを感じていた。
音の源には命がある。そんな当たり前のことに気づかせてくれたインド。
あの音が、私にとってのインドだ。
そして時々途方もなく、あの音の中に身を置きたくなるのだ。
世界といのちの教室
7月の初めに、国境なき医師団が行っている「世界といのちの教室」という教育プログラムに、ボランティアとして参加してきた。
この日一緒に活動したのは、大学生と私の母くらいの年代の女性、そして国境なき医師団日本会長の中嶋優子医師と事務局スタッフさん。計5名で、札幌市内の小学校を訪問した。
「世界といのちの教室」は、小学校5・6年生を対象とする、世界で起きている命の危機や医療支援について子どもたちが学び、考えるための特別授業だ。「総合」という科目で、5・6時間目の授業の中で実施した。
【世界といのちの教室 プログラム内容(90分想定)】
◎前半
「知る・学ぶ」
世界で起きている命の危機。医療援助を必要としているのはどんな人?
国境なき医師団はどんな活動をしているの?
◎後半
「考える」
国境なき医師団のお医者さんになって、
人道援助の現場で直面するジレンマを体験してみよう。
(ワークショップ・ディスカッション)
全体的にはこのような流れで進行していく。(詳細は国境なき医師団のホームページに記載されている)
私たちボランティアスタッフの主な任務は、全体的な進行の手伝いと、子どもたちのグループディスカッションのサポートだ。
当日スムーズに活動できるよう、事前に研修も受けている。
このプログラムは、グループディスカッションの時間が特に素晴らしく、大人でも簡単に答えを出すことのできない難しいテーマに対して、子どもたちが一人ひとり真剣に考え、チームで意見をまとめ、最善の選択を模索する姿に感動せずにはいられなかった。むしろ大人こそ、子どもたちのこの姿を見て彼らの言葉を聞き学ぶべきではないかと感じるほどだった。
そして今回の教室で語られた、中嶋医師の言葉はとても重く心に残っている。
中嶋医師は、2023年の11月にガザへ派遣され、交通網も途絶える中で荷物を背負い、徒歩で現地入りしたそうだ。 「これまで経験したどの現場よりも一番悲惨な状況でした。さまざまな現場経験のある他国のスタッフも皆口を揃えてガザほどひどい状況を見たことがないと言っていた。それくらい大変な状況で、それが現在もさらに悪化し続けています。」
この言葉は、実際に現地で人々の命に向き合ってきた人だからこそ語れる重みを持ち、胸に深く刺さる。
現地での写真とともに過酷な環境下での活動の話を、わかりやすく語る中嶋医師は、最後に一人の少女の動画を見せてくれた。
動画の中の少女は覚えたての英語で自己紹介し、好きな色や好きな遊び、夢について朗らかに話していた。
動画が終わると、中嶋医師は子どもたちに優しく語りかけた。
「彼女はみんなと同じように好きな色や好きな遊びがあって、そして夢があります。ただ一つだけ違うのは、彼女が居る場所がガザであるということ。天井の無い監獄と呼ばれるガザから、彼女は出ることができません。生まれたときから紛争の中で生きています。」
そこにいる全員が真剣な眼差しで聞いていた。
その後、「中嶋先生はどうして国境なき医師団に入ったのですか?」という子どもたちの質問に対して
中嶋医師は悩むことなく真っ直ぐに「かっこいいから!だってかっこいいでしょ?困っている人たちを助けにいくんだもん!」と笑顔で答えていた。
あぁ、自分も子ども時代にこういう授業を受けたかったなぁ、こういう人に出会いたかったなぁと素直にそう思った。
「世界といのちの教室」は、遠い国の出来事を自分ごととして考えるきっかけを子どもたちに与えてくれる場だ。
こうした経験を記憶した子どもたちは、広く世界を見つめ、意見が違っても耳を傾け、ひとりひとりの命の重さが平等であることを理解できるようになるはず。間違いなく未来の平和につながる大切な体験であると感じた。
国境なき医師団は、ジャーナリストと医師によって設立され、「独立・中立・公平」を活動原則とし、98%が民間からの寄付によって支えられている。そのため国家や政治、宗教などの背景に左右されず活動することができ、世界各地で緊急医療援助と証言活動を続けている。
国境なき医師団の活動は、寄付やボランティアなど、たくさんの人の理解と協力によって支えられている。
私自身も今回の体験を通じて、募金だけではなく、「伝えること」や「考える場を持つこと」もまた支援につながる第一歩になるのだと実感した。
「この世界に、関係のないいのちなんて、ひとつもない。」——世界といのちの教室が掲げるこの言葉を、深く心に刻む。
私はたまたま日本の平和な町に生まれただけ。生まれてくる場所が違えば、戦禍の人生だったかもしれない。
遠く離れた地で起きている現実を前に、私たちができることは限られているかもしれないけれども、「知ること」「考えること」、そして「伝えること」もまた、小さな一歩となりうるはず。
私自身も、ボランティアや募金、そして伝えることを通して、これからも支援を続けていきたい。
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もし「世界といのちの教室」を自分の学校でも実施したい、という近隣の学校関係者や自治体の方がいらっしゃいましたら、私が橋渡しをすることもできますので、ぜひご相談ください。
子どもたちが未来に向けて広く世界を見渡せるような学びの場を守り育てていくこと、それもまた国際協力のひとつのかたちであり、将来の平和をつくる道筋のひとつだと思います。
(国境なき医師団ホームページ上では、お申し込みがいっぱいで新規受付が中止となっていますが、事務局のスタッフさんに直接連絡することができます◎)
また現在、国境なき医師団の中嶋優子医師が、ガザを含む中東の紛争地域における人道危機に対しての日本政府への要望書と支援のオンライン署名活動をしています。
change.orgよりどなたでも署名できますので、ぜひ多くの署名が集まることを願い、ここにリンクを記載させていただきます。
https://chng.it/ZNz6wrc7sM
トマトの香り
連日30度近い気温が続く。北海道の夏もずいぶん暑くなったものだ。
車の色が黒いことも相まって、日に照らされた車内はサウナのように熱い。
エアコンが効くまでに時間がかかるから、すべての窓を半開にして走る。(※全開は強すぎるので半開がちょうどよい)
なまぬるい風が最大風量で駆け巡りながらのドライブは、インドア属の私が感じられる数少ない「夏のアクティビティ」に等しい。
北海道らしい広大な畑がフロントガラスのみならず、全方位に広がる。
空と入道雲と山々、そして果てなく続く畑を眺めながら車を走らせていると、途中から風がふわっとトマトの香りになった。
運転していなければ目を閉じて感じたいくらい、これは絶対トマトだ。
パズルのピースが埋まるように、完璧な夏を感じた瞬間だった。
後部座席から「トマトのにおいがするね」と子の声がした。
「そうだね」と答える自分の中に、なんとも穏やかな喜びがあった。
1000万の10倍
子どもが夏休みの宿題でつまずいていた。
算数で、大きな数をもとめるものだった。
「1000万の10倍なんてわかんないよ!」と彼は半泣きで叫ぶ。
位を覚えるのが学習の目的なのだろうけど、億という数字は小3にはまったく身近ではないし
大人にとっても日常生活とはかけ離れたかなり大きな数字だ。
実体験が伴わないことを紙上でイメージするのはとても難しい。大人だってそうなのだから、子どもはなおさら。
苦手意識の蓄積は、勉強嫌いにつながっていく。可能性が芽生える前に、好奇心の窓が閉ざされてしまってはもったいない。
今目の前で叫んでいる少年のために、私は何ができるだろうか。
小3と一億をつなげるには、夢と浪漫、そして……
電卓だ…!!!
少年はその小さな指で、10000000×10と打ち込んだ。
100000000という数のゼロの多さに、彼は目を輝かせていた。
いちおくって、こんなにゼロがあるんだねと感動していた。
今日のところは、これで良しとしよう。
●余談●
先日息子と一緒に小樽を訪れた際に、旧日銀の小樽支店に立ち寄った。
そこで「一億円の重さ」を体験できるコーナーがあって、ずっしりと重く感動した。
私たち親子と一億が、初めて結びついた瞬間だった。
Our Open Dialogue vol.3 / わたしたちの「選挙」を語る夜
52.05パーセント。
これは、私が住む国・民主主義国家である日本の国政選挙、前回の参院選の投票率(全体)だ。
年代別での高投票率順は、60歳代の65.69%、次いで50歳代の57.33%、70歳代以上の55.72%となっている。
一番投票率が低いのは、20歳代の33.99%、次に10歳代(18歳19歳)の35.42%、そして30歳代の44.80%となっている。
私が当てはまる40歳代は、ちょうど中間の50.76%だった。
総務省のウェブサイトでは、投票率に関するデータが誰でも閲覧できるようになっている。
それは今回初めて知った。見はじめると結構面白い。
投票を棄権した理由についての意識調査も掲載されていて、その中で一番多かったのは、「選挙にあまり関心がなかったから(35%)」だった。
日本の選挙、特に国会議員を決める国政選挙で、これだけ投票率が低い理由も、
多くの若者が選挙にあまり関心がない理由も、その原因を突き詰めれば見えてくるものがある。
そのひとつとして私が思うのは、日常生活の中での語りづらさにあるのでは、と感じている。
私はまわりの多くの大人から「宗教と政治の話はタブー。争いの原因になるからしてはいけない。」と教えられてきた。
「そうなのか~。」とそのまま政治に触れずに大人になり、いきなり「はい!選挙権です!投票に行こう!」と言われても、正直急に興味がわくわけがない。
とりあえず投票には行くけれども、自主的にというよりは、親に行けと言われてしぶしぶ行っていた20代だった。
今でこそ、両親や姉妹、夫とは政治の話は結構するけれど、いざ外に出ると「政治の話」は腫れ物のように扱われ、 依然しにくさがある。
政治は、政治家のお偉いさんたちが自分たちの生きているレイヤーとは違う場所で行っているもの、という感覚で、驚くほど実生活の中での存在感がまるで無い。
それに私たちは日々の生活を回していくことだけで精一杯だ。
働けど働けど、不思議なほど手元に残らない。税金を納めるために、働いているのかと思うほど負担が大きい。
経済格差、教育格差、男女格差、裏金問題、税金の無駄遣い、環境問題、エネルギー問題、差別やヘイトなどはそこら中に存在していて、社会が良くなっている実感は残念ながら無い。
つまり、私たちが「政治」から遠のけば遠のくほど、苦しさも負担も増すばかり。そんな感覚がずっとある。
もしかして私たち、文句も言わずだまってお金(税金)を出し続けるスポンサー(納税者)だと思われているのでは?
税金を払っているわたしたちには、意見をする権利があるはず。
困っていることや大変なことは、訴える権利もあるはず。
政党がどうとか、右が左がどうとか、そんなことは私たちにあまり関係ない。もっと言うと、どうでもよいことだ。
大事なのは、これからの社会がどうなってほしいか、どんな社会で生きていきたいのかをみんなで考えることだ。
それこそが、「選挙」だ。
7月20日に、3年ぶりの参院選がある。
参議院は、衆議院で可決された予算や法案をじっくり審議する場所だ。
税金がちゃんと社会のために使われているのか、この法案で苦しむ人はいないのか、中立で倫理観を持った人が党派を越えて精査をする。
国会議員一人に当てられる税金は、報酬や特権を含めて年間約6000万円以上。(高すぎるが。)任期は6年だ。解散は無い。
国会議員は、私たちの声と向き合い、予算や法案に反映または審議するという役割を担う。
誰を選ぶのか、ものすごく真剣に考える必要がある。
これは、語りにくさの壁を壊し、対立構造を追い払い、純粋に「選挙」と向き合うチャンスかもしれない。
そう思って、『Our Open Dialogue vol.3 / わたしたちの「選挙」を語る夜』を企画し、7月13日の夜に実施した。
とても長い前置きになってしまった。
今回の対話会は、4人で語り合う夜となった。
今まで何となく曖昧でもやもやしていた「選挙」のよくわからない部分を事前に調べ、以下の構成で進行した。
・そもそも国会って何をするの?
・衆議院と参議院ってどう違うの?
・衆院選と参院選の違いは?
・選挙区と比例代表の違いは?
・特定枠ってなに?
・選挙区の候補者を全員見てみよう
・政党別マニフェストと比例代表の候補者を見てみよう
・政党マッチングの使い方
・自分が今回の参院選で大事にしたいポイントを語ってみよう
私自身、今回この対話会を企画したことで、今までよくわかっていなかった部分がクリアになると共に、
衆院選と参院選で投票方法を変えると、より1票が活きる可能性がある、ということも発見できた。
終戦後の投票率や今現在の投票率を見比べて、それぞれの時代背景などに思いを馳せてみたりもした。
自分にとって大事なのは、どの政党を支持するかよりも、
弱い立場に置かれている人たちの声を理解できる人を選ぶことなのだと気づくことができた。
そして差別や分断を助長する人には投票しない。
私はこれを、今回の参院選の指標にしたい。
わたしたちの「選挙」を語る夜。
語りにくさを乗り越えて、集まってくれた今回のメンバーに
心からの敬意と感謝を。
今度、町議会の傍聴にも行ってみようと思う。
まずは自分の住む町の町政に、関心を持つ。ここから始めてみよう。
