essay / 湖畔の思索日誌
2025-11-05 13:10:00
光らない時間
私たちはいったい、この手のひらの四角い画面に人生のどれだけの時間を費やすのだろう。
ふと、おそろしくなる時がある。
それが無い時代を知っているのに、それはもう遠い昔のことのよう。
それが無い時代に、どんな過ごし方をしていたの。
それが無い時代の小説を読み、それが無い時代の映画を観る。
それが無い時代には、今は失われてしまった時間が溢れていた。
四角い画面の向こうには今日も数多の、如何にも豊かで輝かしい人生が溢れている。
たくさんのハートを求める人々の首は直角に折れ曲がり、充血した目線の先にあるのは手のてらで光る四角い画面。
この四角い画面に人生が吸い込まれるなんてご免だ。
私の時間は、人生は、画面越しにあるのではない。こちら側にあるのだ。
そう言い聞かせて前を向く。
目の前で流れていく光らない時間を、私だけの心に刻む。
