essay / 湖畔の思索日誌

2025-07-14 15:55:00

Our Open Dialogue vol.3 / わたしたちの「選挙」を語る夜

 

52.05パーセント。

 

これは、私が住む国・民主主義国家である日本の国政選挙、前回の参院選の投票率(全体)だ。

年代別での高投票率順は、60歳代の65.69%、次いで50歳代の57.33%、70歳代以上の55.72%となっている。

一番投票率が低いのは、20歳代の33.99%、次に10歳代(18歳19歳)の35.42%、そして30歳代の44.80%となっている。

私が当てはまる40歳代は、ちょうど中間の50.76%だった。

 

総務省のウェブサイトでは、投票率に関するデータが誰でも閲覧できるようになっている。

それは今回初めて知った。見はじめると結構面白い。

投票を棄権した理由についての意識調査も掲載されていて、その中で一番多かったのは、「選挙にあまり関心がなかったから(35%)」だった。

 

 

日本の選挙、特に国会議員を決める国政選挙で、これだけ投票率が低い理由も、

多くの若者が選挙にあまり関心がない理由も、その原因を突き詰めれば見えてくるものがある。

そのひとつとして私が思うのは、日常生活の中での語りづらさにあるのでは、と感じている。

 

私はまわりの多くの大人から「宗教と政治の話はタブー。争いの原因になるからしてはいけない。」と教えられてきた。

「そうなのか~。」とそのまま政治に触れずに大人になり、いきなり「はい!選挙権です!投票に行こう!」と言われても、正直急に興味がわくわけがない。

とりあえず投票には行くけれども、自主的にというよりは、親に行けと言われてしぶしぶ行っていた20代だった。

今でこそ、両親や姉妹、夫とは政治の話は結構するけれど、いざ外に出ると「政治の話」は腫れ物のように扱われ、 依然しにくさがある。

 

政治は、政治家のお偉いさんたちが自分たちの生きているレイヤーとは違う場所で行っているもの、という感覚で、驚くほど実生活の中での存在感がまるで無い。

それに私たちは日々の生活を回していくことだけで精一杯だ。

働けど働けど、不思議なほど手元に残らない。税金を納めるために、働いているのかと思うほど負担が大きい。

経済格差、教育格差、男女格差、裏金問題、税金の無駄遣い、環境問題、エネルギー問題、差別やヘイトなどはそこら中に存在していて、社会が良くなっている実感は残念ながら無い。

 

つまり、私たちが「政治」から遠のけば遠のくほど、苦しさも負担も増すばかり。そんな感覚がずっとある。

もしかして私たち、文句も言わずだまってお金(税金)を出し続けるスポンサー(納税者)だと思われているのでは?

 

税金を払っているわたしたちには、意見をする権利があるはず。

困っていることや大変なことは、訴える権利もあるはず。

政党がどうとか、右が左がどうとか、そんなことは私たちにあまり関係ない。もっと言うと、どうでもよいことだ。

大事なのは、これからの社会がどうなってほしいか、どんな社会で生きていきたいのかをみんなで考えることだ。

 

それこそが、「選挙」だ。

 

 

 

7月20日に、3年ぶりの参院選がある。

参議院は、衆議院で可決された予算や法案をじっくり審議する場所だ。

税金がちゃんと社会のために使われているのか、この法案で苦しむ人はいないのか、中立で倫理観を持った人が党派を越えて精査をする。

国会議員一人に当てられる税金は、報酬や特権を含めて年間約6000万円以上。(高すぎるが。)任期は6年だ。解散は無い。

国会議員は、私たちの声と向き合い、予算や法案に反映または審議するという役割を担う。

誰を選ぶのか、ものすごく真剣に考える必要がある。

 

これは、語りにくさの壁を壊し、対立構造を追い払い、純粋に「選挙」と向き合うチャンスかもしれない。

そう思って、『Our Open Dialogue vol.3 / わたしたちの「選挙」を語る夜』を企画し、7月13日の夜に実施した。

とても長い前置きになってしまった。

今回の対話会は、4人で語り合う夜となった。

 

今まで何となく曖昧でもやもやしていた「選挙」のよくわからない部分を事前に調べ、以下の構成で進行した。

・そもそも国会って何をするの?

・衆議院と参議院ってどう違うの?

・衆院選と参院選の違いは?

・選挙区と比例代表の違いは?

・特定枠ってなに?

・選挙区の候補者を全員見てみよう

・政党別マニフェストと比例代表の候補者を見てみよう

・政党マッチングの使い方

・自分が今回の参院選で大事にしたいポイントを語ってみよう

 

 

私自身、今回この対話会を企画したことで、今までよくわかっていなかった部分がクリアになると共に、

衆院選と参院選で投票方法を変えると、より1票が活きる可能性がある、ということも発見できた。

終戦後の投票率や今現在の投票率を見比べて、それぞれの時代背景などに思いを馳せてみたりもした。

 

自分にとって大事なのは、どの政党を支持するかよりも、

弱い立場に置かれている人たちの声を理解できる人を選ぶことなのだと気づくことができた。

そして差別や分断を助長する人には投票しない。

私はこれを、今回の参院選の指標にしたい。

 

 

わたしたちの「選挙」を語る夜。

語りにくさを乗り越えて、集まってくれた今回のメンバーに

心からの敬意と感謝を。

 

今度、町議会の傍聴にも行ってみようと思う。

まずは自分の住む町の町政に、関心を持つ。ここから始めてみよう。

 

 

2025-07-05 17:04:00

Our Open Dialogue vol.2/ 振り返り対話会

Our Open Dialogue vol.1「アウシュヴィッツを訪ねて」の余韻が続くなか、

参加してくれた方から、さらに深める「振り返り会」をしたいとの嬉しいご提案をいただいて、

善は急げとばかりの早さで、その翌週にOur Open Dialogue vol.2「アウシュヴィッツを訪ねて/振り返り対話会」をひらいた。

 

第一回目は、アウシュヴィッツの旅の体験談も兼ねた対話会で、人数も多かったため、対話のキャッチボールの時間までは確保できなかったことが心残りだった。

なので第二回目は少人数制でひらいてみることに。

少人数ならこの店の中でもできるかもと思い、少しレイアウトを変えてみた。

「閉店後の思索室」というイメージで、店の閉店後に灯りを少し落とした静かな対話のための場所ができた。

16年以上店を続けていて、夜に店を使うことは初めてだったので、新鮮な、というか新たな空間としての使い方を見出せたことも嬉しかった。

 

この日、夜の思索室に集まった5人でゆっくりと向き合いながら、それぞれが前回の対話会を思い返していた。

そしてひとりが、言葉を発してくれた。

「戦争はいけない、平和が大切だと誰もが思っているのに、一歩家の外に出ると話しにくい空気感がある。例えば原発のことにしても戦争のことにしても、誰かと普通に話してみたいと思っているのに、なぜだかとても発しにくい。そんな風に過ごしていたから、こうして言葉に出しても良いのだと思える空間があってとても嬉しい。」

 

とてもわかる。その空気感は、私も確かに感じていた。

現在店で開催しているテーマイベント『Think Around Us vol.1/ 戦争がもたらすもの』は、その空気感を少しでも変えて、関心を寄せたり話したりするきっかけになるようにしたいと思い企画した。とはいえ、店のイベントに「戦争」という文字を入れることは、とても勇気のいることだった。きっと距離を取る人も多いだろう。

しかし同時に、こうしたテーマに対して実際どのような反応があるのかを知りたいという純粋な好奇心もあった。

そして、SNS(Instagram)では、とても興味深い結果が出ていた。

『Think Around Us vol.1/ 戦争がもたらすもの』に関連する投稿に対して、"いいね"の数こそ少ないけれど閲覧数が非常に高くなっていた。

「関心」「傍観」「沈黙」がInstagramによって見事に可視化されたわけだけど、いずれにしても興味を示してくれていることがわかったのは嬉しいことだ。

店舗では、「関心」を持つ人が、「来店」というひとつのアクションを起こしてくれているからか、お客さんと戦争について店内で"普通に"話せる機会が増えた。

 

そんな話を、私から対話会のメンバーにシェアをした。

そしてそこから、

言えない空気って、実際何なんだろうね。

世間にそう思われたくないっていうのは、私たちは具体的に誰に対して忖度してしまうんだろうか。

自分たちの親世代に、「政治と宗教の話はタブーだから、他の人としてはいけない」と言われて育ったことも、言いにくさに関係するのかもしれないね。

親世代は学生運動とか安保闘争とかをリアルタイムで経験しているから、余計そういうマインドになったのかもね。

と、さらに広がっていった。

 

今回の対話の流れの中で生まれた問いは、

・「言えない空気」って実際何なんだろう…

・SNSの情報と信憑性の精査はどうしてる?

・対立と分断の構造を変えていくには

・加害の立場になったときには

・「選択肢」と「選択の尊重」の理解とは

・無回答や無投票は意思表示になり得るのか

・思考力を育むには

など、次々と興味深いテーマが出てきて、あっという間の2時間だった。

 

前回も今回も感じたことは、「聞く」ことの重要性。

真剣に耳を傾けてくれる人がいるからこそ、一生懸命自分の言葉で伝えてみようと思えるのかもしれない。

 

対話会は、「聞く」練習であり、「伝える」練習でもある。

互いを認め合い、尊重し、共に学び合える場にしていきたい。

 

家族の団らんとも、友だち同士のおしゃべりとも少し違う、暮らしも仕事も趣味も異なる人たちが、同じ「問い」を囲んで対話をする特別な時間。

その後の余韻もまた、良き思索の種となるかもしれない。

今後もOur Open Dialogueは不定期でひらいていこうと思う。

 

今回初めて閉店後の店内でひらいた対話会は、小さな研究室のようでとても良かった。

当面は少人数制のこのスタイルで続けてみるつもりなので、心とタイミングが重なるときに、だれかと思索の時間を共有できると嬉しい。

 

 

 

 

2025-06-22 16:22:00

Our Open Dialogueのはじまり

私の店の新たな試みとして始めた、「Our Open Dialogue」。

一方通行の発信だけではなく、その日に集った人と共に考え合う対話の時間を持ってみたいと思い、立ち上げた。

そしてその一回目を、6月20日の世界難民の日に実施した。

 

今回は初回ということもあり、

現在店舗で開催しているイベント「Think Around Us vol.1/戦争がもたらすもの」のテーマに沿って

2月に訪問したポーランドのアウシュヴィッツ・ビルケナウ博物館の体験談を前半に、

そして後半は、ホロコーストの歴史の場である同博物館が掲げる「二度と繰り返さないために、私たちはどうしたらよいのか」という問いを囲み、

参加者13名とともに、それぞれの今の気持ちを言葉にする対話の時間として構成した。

 

私と、今回のトークパートナーである妹を含めて15人。

ひとつのテーマについて共に考え、それぞれの声に耳を傾け、自分の気持ちを言葉にしてみる、という時間は日常の中でほとんど無い。

その空気は、友達同士のおしゃべりとも、職場の同僚との会話とも、家族団らんの場とも違う。

顔見知りの人と初めましての人とが混ざり合い、少し緊張感も存在する。

私たちの共通点は、今日この日のテーマに何かしらの思いを感じてここにいる、ということだ。

 

対話会をひらくにあたり、共通のルールを設けた。

 

【Our Open Dialogue のルール】

  • 耳を傾けてよく聞く
  • 他の参加者の発言に対して、否定的な態度をとらない。(例:でも…、それは違うと思う、など否定や批判をしない)
  • 発言せず、ただ聞いているだけでもOK。
  • 知識や一般論ではなく、自分の言葉で話す。(専門的な言葉や著名人の言葉ではなく、自分の体験や感じたことを基に話す)
  • わからなくなっても、話がまとまらなくてもいい。
  • ひとつの正解を求めるのはなく、そこにある言葉に耳を傾ける。

 

 

この日のテーマは「二度と繰り返さないために、私たちはどうしたらよいのか」

椅子の配置をゆるやかな楕円形にして、一人目の話者になるのはなかなか勇気がいると思い、まずは私からスタートした。

その後は自然と反時計回りに、これまでの自分の体験や人生と重ねながら、ひとりひとりが今の自分の言葉で、一生懸命語ってくれた。

ある人は、初めてのお給料で行った旅先の経験と重ねて。

ある人は、東日本大震災のボランティアの経験を通して。

ある人は、故郷が原爆投下の候補地だったから、その日晴れていたら自分は存在しなかったのかもしれないと。

 

今ここにある声に耳を傾けるということが、どんなに貴重であるか。それは想像を超えるものだった。

自分ひとりの思考だけでは到底たどり着けない15人15通りの言葉に、心が震えた。

未だ余韻とその後の思索が続いている。

 

 

***

知るための入り口に立つこと

知ることも、自分の人生も大切にすること

自分の大切な人を守ること

今の場所でできることを考える

世界の人と交流し友だちになること

知らないでいる自分より、知っている自分でいること

平和な暮らしの手本を示すこと

映画はそこで終わりだけど、そうじゃないんだ

争いの時には負けるほうでいたい

許すこと

戦争に正当な理由を求めず、だめなものはだめだと言える気持ちを持つ

若い世代目線での非戦を広げていく

こういうことをオープンに話せる場がもっとあるといい

つらいことを経験したのに、同じことをなぜ他の人にしてしまうのか、わからないから考えていきたい。

善と悪はすべての人が持つ。そのことを自覚した上で、流されずに善の決断をすること。

 

***

 

この日、ともに考え、素晴らしい言葉を聞かせてくれた皆さんに

心からの尊敬と感謝を。

 

 

 

 

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