essay / 湖畔の思索日誌
2025-11-16 11:43:00
森の歓迎
晩秋の入り口の或る日、車を走らせていた。
どの季節が一番好きかと問われたら、迷い無く秋だと答える。中でも秋の終わりの始まりがいい。
湖を眼下に国道を走る。休日だからなのか、いつもよりも交通量が多い。
道路沿いの山林の木々はその殆どが山吹色に染まり、吹く風と車の往来による風で無数の葉が舞い散り、そして舞い上がっていた。
秋晴れの空とのコントラストが美しく、こんなにも空色と黄色の相性が良いことを今更ながら季節に教えてもらう。
その時、後部座席にいた子がつぶやいた。
「森に歓迎されてるみたいだね」
はっとして、目の前に広がる景色を見直す。なんということだ。
これ以上無いほど言い得て妙なその瞬間の美しさをさらりと言い放ち、子は車窓を眺め続けていた。
こどものなかに存在する無限のスペースには、すっかり凝り固まってしまった私の脳内では生まれないものがたくさん浮遊している。
時々放出してくれるその一部を、私はただひたすら感服し受け取るだけだ。
子育てという言葉が好きではない。なぜならば、子はいつだって私の遙か先にいるのだから。
山吹色のトンネルで歓迎を受けながら、そんなことを考えていた。
もうすぐ冬が来る。
