essay
2022-10-10 15:48:00
旧友の訪問
時々、旧友が店を訪ねてきてくれる。
私の学生時代は少し複雑で、中高一貫の女子校に通っていたけれど、
高校の途中で自主退学し道立の高校へ転校という選択をした。
とても大きな女子校で、私は特に目立つ人間でもなく、学校をやめた自分を記憶に留めておいてくれる人など殆どいないだろう、そう思っていた。
心の片隅にあるはずの中高時代の記憶も、時とともに遠くへと。
とにかく今をしっかり生きることに全力投球の日々で、その頃の記憶に自分から会いに行くことはほとんどない。
話は戻り、
時々、旧友が店を訪ねて来てくれる。
店の扉が開き、チリンとドアベルの音が止むと同時に、かつて呼ばれていた懐かしい呼び名を耳にした瞬間、
心のどこか遠くへと行ってしまった自分もまた、この店に駆けてくる。
驚きと懐かしさと喜びに満ちた、束の間のひととき。
特に会う約束をしたわけでもなく、私がここにいることを知り、ふらりと訪ねてきてくれる。
彼女らもまた、あの頃の自分を連れて。
旧友が訪ねてくれた日は、
あの頃の自分と今の自分が店に立つ。
覚えていてくれてありがとう、そんな気持ちが溢れ出る。
店というものは、過去と今と未来を結ぶ場所なのかもしれない。