essay / 湖畔の思索日誌

2025-09-05 16:02:00

世界といのちの教室

7月の初めに、国境なき医師団が行っている「世界といのちの教室」という教育プログラムに、ボランティアとして参加してきた。

この日一緒に活動したのは、大学生と私の母くらいの年代の女性、そして国境なき医師団日本会長の中嶋優子医師と事務局スタッフさん。計5名で、札幌市内の小学校を訪問した。

 

 

「世界といのちの教室」は、小学校5・6年生を対象とする、世界で起きている命の危機や医療支援について子どもたちが学び、考えるための特別授業だ。「総合」という科目で、5・6時間目の授業の中で実施した。

 

国境なき医師団 世界といのちの教室

 

 

【世界といのちの教室 プログラム内容(90分想定)】

 

◎前半

「知る・学ぶ」

世界で起きている命の危機。医療援助を必要としているのはどんな人?

国境なき医師団はどんな活動をしているの?

 

◎後半

「考える」

国境なき医師団のお医者さんになって、

人道援助の現場で直面するジレンマを体験してみよう。

(ワークショップ・ディスカッション)

 

 

全体的にはこのような流れで進行していく。(詳細は国境なき医師団のホームページに記載されている)

私たちボランティアスタッフの主な任務は、全体的な進行の手伝いと、子どもたちのグループディスカッションのサポートだ。

当日スムーズに活動できるよう、事前に研修も受けている。

 

このプログラムは、グループディスカッションの時間が特に素晴らしく、大人でも簡単に答えを出すことのできない難しいテーマに対して、子どもたちが一人ひとり真剣に考え、チームで意見をまとめ、最善の選択を模索する姿に感動せずにはいられなかったむしろ大人こそ、子どもたちのこの姿を見て彼らの言葉を聞き学ぶべきではないかと感じるほどだった。

 

そして今回の教室で語られた、中嶋医師の言葉はとても重く心に残っている。

中嶋医師は、2023年の11月にガザへ派遣され、交通網も途絶える中で荷物を背負い、徒歩で現地入りしたそうだ。 「これまで経験したどの現場よりも一番悲惨な状況でした。さまざまな現場経験のある他国のスタッフも皆口を揃えてガザほどひどい状況を見たことがないと言っていた。それくらい大変な状況で、それが現在もさらに悪化し続けています。」

この言葉は、実際に現地で人々の命に向き合ってきた人だからこそ語れる重みを持ち、胸に深く刺さる。

 

現地での写真とともに過酷な環境下での活動の話を、わかりやすく語る中嶋医師は、最後に一人の少女の動画を見せてくれた。

動画の中の少女は覚えたての英語で自己紹介し、好きな色や好きな遊び、夢について朗らかに話していた。

 

動画が終わると、中嶋医師は子どもたちに優しく語りかけた。

「彼女はみんなと同じように好きな色や好きな遊びがあって、そして夢があります。ただ一つだけ違うのは、彼女が居る場所がガザであるということ。天井の無い監獄と呼ばれるガザから、彼女は出ることができません。生まれたときから紛争の中で生きています。」

そこにいる全員が真剣な眼差しで聞いていた。

 

その後、「中嶋先生はどうして国境なき医師団に入ったのですか?」という子どもたちの質問に対して

中嶋医師は悩むことなく真っ直ぐに「かっこいいから!だってかっこいいでしょ?困っている人たちを助けにいくんだもん!」と笑顔で答えていた。

あぁ、自分も子ども時代にこういう授業を受けたかったなぁ、こういう人に出会いたかったなぁと素直にそう思った。

 

 

「世界といのちの教室」は、遠い国の出来事を自分ごととして考えるきっかけを子どもたちに与えてくれる場だ。

 こうした経験を記憶した子どもたちは、広く世界を見つめ、意見が違っても耳を傾け、ひとりひとりの命の重さが平等であることを理解できるようになるはず。間違いなく未来の平和につながる大切な体験であると感じた。

 

国境なき医師団は、ジャーナリストと医師によって設立され、「独立・中立・公平」を活動原則とし、98%が民間からの寄付によって支えられている。そのため国家や政治、宗教などの背景に左右されず活動することができ、世界各地で緊急医療援助と証言活動を続けている。

 

国境なき医師団の活動は、寄付やボランティアなど、たくさんの人の理解と協力によって支えられている。

私自身も今回の体験を通じて、募金だけではなく、「伝えること」や「考える場を持つこと」もまた支援につながる第一歩になるのだと実感した。

 

 

「この世界に、関係のないいのちなんて、ひとつもない。」——世界といのちの教室が掲げるこの言葉を、深く心に刻む。

私はたまたま日本の平和な町に生まれただけ。生まれてくる場所が違えば、戦禍の人生だったかもしれない。

遠く離れた地で起きている現実を前に、私たちができることは限られているかもしれないけれども、「知ること」「考えること」、そして「伝えること」もまた、小さな一歩となりうるはず。  

 

私自身も、ボランティアや募金、そして伝えることを通して、これからも支援を続けていきたい。

 

 

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もし「世界といのちの教室」を自分の学校でも実施したい、という近隣の学校関係者や自治体の方がいらっしゃいましたら、私が橋渡しをすることもできますので、ぜひご相談ください。

子どもたちが未来に向けて広く世界を見渡せるような学びの場を守り育てていくこと、それもまた国際協力のひとつのかたちであり、将来の平和をつくる道筋のひとつだと思います。

(国境なき医師団ホームページ上では、お申し込みがいっぱいで新規受付が中止となっていますが、事務局のスタッフさんに直接連絡することができます◎)

 

また現在、国境なき医師団の中嶋優子医師が、ガザを含む中東の紛争地域における人道危機に対しての日本政府への要望書と支援のオンライン署名活動をしています。

change.orgよりどなたでも署名できますので、ぜひ多くの署名が集まることを願い、ここにリンクを記載させていただきます。

 

https://chng.it/ZNz6wrc7sM